YASARA:Version 25.1.13アップデートの追加機能・変更点のまとめ

2025年2月26日水曜日

【YASARA】

t f B! P L

 

2025年1月13日にYASARAのアップデートがありました。この記事では、前のバージョン(Version 24.10.5)からVersion25.1.13へのバージョンアップデートで新しく追加された機能や変更点などについてまとめたいと思います。

これまでのバージョン更新に伴う変更点(ChangeLog)の一覧は、開発元の以下のページから確認することができます。
https://www.yasara.org/changelog.htm


【New feature】VINAによる2つのリガンドを用いたドッキングが可能に

VINA を利用して、2つのリガンドを同時にドッキングできるようになりました。これにより、補酵素と基質のような2分子を一度に解析することが可能となります。

ユーザーマニュアル該当ページ:
Recipes > Dock a ligand to a receptor > Useful docking hints > If you want to dock two ligands at the same time (Structure)

AutoDock Vinaのドキュメントページには、2つの阻害剤(S体とR体)とタンパク質(ホスホジエステラーゼδサブユニット)の複合体構造であるPDB ID: 5X72 の構造を用いた再ドッキング(複数リガンドドッキング)のチュートリアルがあったので、今回はそちらを参考に、同じPDB構造を使用し、YASARAを使って複数リガンドの再ドッキングを試してみたいと思います。

実行手順

2つのリガンドを用いたドッキングの場合も、通常のドッキング(dock_run.mcrの実行)と同じ操作手順で実行できます。マクロファイルの編集なども不要です。

ただし、リガンドの構造ファイルは2つのリガンド構造を1つのオブジェクトとして保存しておく必要があるので、その点に注意してください。

1)構造ファイルの準備

今回はPDB ID: 5X72の構造を使用して、レセプターファイルとリガンドファイルを準備します。

【前処理】
まず、不要な水分子を削除し、Clean処理した後、リガンド分子とレセプターをSplitコマンドで別Objectに分割します。見やすくするために、オブジェクト名や分子名を変更しておきました。

レセプター分子:Mol R
リガンド分子(2分子):Mol L1, L2

オブジェクト名と分子名の変更

【シミュレーションセルを設定】
今回は、結合ポケット周辺にシミュレーションセルを設定して実行してみます。リガンドの2分子をSelectコマンドで選択し、リガンド周囲にドッキングセルをデフォルト設定で作成しました。(設定:選択した原子の周囲5 A、立方体)

【リガンドファイルの保存】
今回はリガンドオブジェクトをYASARA Object(.yob)ファイルで保存しました。
※2つのリガンド分子が異なるオブジェクトの場合は、Joinコマンドを利用して同じオブジェクトに結合してから保存してください。

【レセプターファイルの保存】
リガンドオブジェクトを削除して、レセプターとシミュレーションセルをYASARA Scene(.sce)ファイルで保存しました。


2)マクロ実行

通常のドッキングと同じ手順でマクロターゲットを指定し、付属のドッキング用マクロ「dock_run.mcr」を実行します。マクロの編集などは特に必要ないので、ここではデフォルトのまま実行してみます。


3)ドッキング結果 

ドッキングの結果ファイルは通常通り出力されますが、計算終了時に表示される画面( [マクロターゲット].sce ファイル)では、2種類のリガンドが個別の分子(Mol)としてリスト表示されます。少し見にくいですが、リガンド1とリガンド2が交互に並んでいて、上から2つずつのリガンドがペアとなり、それぞれが1つのドッキング結果となっています。

ドッキング結果画面([マクロターゲット].sce ファイル)

SCENECONTENT 拡大画面

上のスクリーンショットはドッキングスコアが最も高かった構造をのみ表示していますが、2分子ともβシートで囲まれた結合ポケット内に収まっています。
この構造を、元のPDBの構造と比較してみます。
SupObjコマンドで元のPDB構造(リファレンス構造)と重ね合わせた結果が以下の画像です。(レセプターは非表示にしています)

ドッキング結果構造とリファレンス構造の重ね合わせ
グレー:リファレンス構造 水色:ドッキング結果構造(トップスコア)
RMSD値は0.1061 Aで、元の構造をよく再現できました。

ちなみに、結果のログファイル([マクロターゲット].log)も通常のドッキングと同じ構成で出力されます。結合エネルギー値など、各リストの結果は2つのリガンドを含めた情報が記載されています。
ログファイルの出力例(内容は通常のドッキングと同じ)

まとめ


以上のように、2つのリガンド構造を1つのオブジェクトとして構造ファイルを準備することで、2つのリガンドを同時にドッキングすることができます。
ただ、YASARAのユーザーマニュアルには、リガンドの1つがドッキングしない場合があるとも記載されているので、現時点では注意して実行する必要がありそうです。
シミュレーションで良い結果が得られない場合は、リガンド分子を一つずつドッキングするか、VINAの「exhaustiveness」の値を大きくする方法(マクロ内に記載があるので検索してみてください)を試してみてください。

補足

ローカルドッキング(dock_runlocal.mcr)でも2分子のリガンドを構造ファイルに使用してドッキングを試してみたところ、問題なく動作しました(デフォルトのマクロを使用)。ローカルドッキングにも対応しているようです。
一方で、スクリーニング用マクロ(dock_runlocal.mcr)では、リガンド構造ファイルの各分子(Mol)を個別のリガンドとして扱うので、2つのリガンド分子をセットにしてドッキングを実行することはできないようです。(個別のリガンドとして認識されてしまうため)
また、ドッキング結果([マクロターゲット].sce)を用いて再スコアリングを行うマクロ(dock_rescore.mcr)がありますが、2つの分子をリガンドとして使用した場合、結果ファイルのリストには各リガンドが個別に並ぶため、正しく処理されません。つまり、本来は2つのリガンドを組み合わせた状態で再スコアリングすべきところが、それぞれのリガンドに対して個別にスコアリングが行われてしまいます。


【New feature】結合次数の割り当て方法が変更(Clean, TypeBondコマンド)

結合次数を再割り当てするコマンド「TypeBond」の処理方法が変わりました。
TypeBondコマンドは、構造のクリーニングを行うCleanコマンドでも実行されるコマンドですが、今回のアップデートで新たなデータソースが加わりました。

以前は、YASARA内に保存されている「yasara.def」ファイルと、OpenBabelチームと共同開発された自動結合タイプ付けツールを用いて結合次数の再割り当てを行っていました。
今回のアップデートでは、それらに加えてRCSBの化合物辞書(CCD)データファイルからも結合タイプを取得するようになりました。
CCDから結合情報を取得できるようになったことで、大きく変形した構造やあいまいな構造でも正式な結合次数を割り当てられるようになりました。

CCD(Chemical Component Dictionary)とは
PDBに登録されている化学成分の情報を集約したデータベースで、各化学成分の分子構造や化学的性質、結合情報などが収録されています。
YASARA内には、yasara.ccdファイル(圧縮形式)として保存されています。

ユーザーマニュアル該当ページ:TypeBondコマンド


【Improved macro】MDトラジェクトリの変換マクロ「md_convert」に重ね合わせのオプションが追加



MDトラジェクトリのファイル形式を変換するマクロ「md_convert.mcr」に、構造を重ね合わせて出力するオプションが追加されました。
この機能は、MDトラジェクトリの活性サイトの解析を行うために、センタリングとフィッティングを行いたい、というユーザーさまの声をもとに実装されました。
これまでは、トラジェクトリ変換後に別のソフトを使って重ね合わせをする必要がありましたが、今回のアップデートにより、変換時に初期構造をリファレンスとして自動で重ね合わせることが可能になりました。
トラジェクトリの前処理が簡単にできるようになったので、利用するととても便利なオプションだと思います。ぜひ活用してみてください。

使い方

オプション設定画面

マクロを実行すると、上のダイアログが表示されますが、赤枠で囲んだ「Remove rotation」のオプションが新たに追加されています。ここにチェックを入れて実行することで、各トラジェクトリの構造を開始構造に重ね合わせて出力することができます(内部ではSupObjコマンドが実行されています)。

【注意!】
「Remove rotation」を有効にする場合は、「Include water object」を無効にしてください。(重ね合わせのために構造を回転する際、水がセルの外側にとび出してしまうため。)

【New highlight】YASARAのウェブサイトが大幅リニューアル

YASARAのウェブサイト(https://www.yasara.org/index.html)が大幅リニューアルしました。アニメーションが追加されたり、各機能紹介ページにアクセスしやすくなりました。新しくなったウェブサイトをぜひ覗いてみてください。

新しくなったYASARAウェブページ


機能紹介一覧


その他の変更点

その他、アップデートに伴う変更点をまとめます。

【Improved macro】dock_runscreening.mcr

・数千のリガンドをスクリーニングする際に発生していた、終了時の遅延を改善しました。
・結合エネルギー(BindingEnergy値)をSDFファイル(*_bestposes.sdf)に保存するようになりました。
・以下のパラメータのデフォルト値が変更
 ・method= VINA → AutoDockLGA
 ・runs= 0 → 500
 ・bestposes= 5 → 1

GPU対応により、高速化されたことでスクリーニング向けのアルゴリズムは、AutoDockLGAがデフォルトに変更されたようです。また、マクロ内にPairObjコマンド等が追加され、SDFのデータフィールドにBindingEnergy値を追記できるようになりました。

【Improved command】LoadSce

数千のオブジェクトを含むシーンを10倍の速さで読み込めるようになりました。

【Improved command】LoadCIF

通常のmmCIFファイルとは異なる、RCSBの化合物辞書(CCD)からのファイルも読み込めるようになりました。

【Improved macro language】sortidx

「sortidx」関数は、リスト内の値を昇順に並べるインデックスのリストを返します。これにより、2つのリストを同時に並べ替えたり、あるリストのキーに基づいて別のリストを並べ替えたりすることができます。

クラスタ上でYASARAを実行する際のサポートが改善

ジョブキューシステムがYASARAの書き込み処理中に強制終了した場合でも、ファイルが途中で破損しないよう改善されました。

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