※本記事の使用バージョン:YASARA ver. 24.10.5
YASARAでは、付属のマクロファイル(md_runmembrane.mcr)を実行することで、自動で細胞膜のモデリング、膜タンパクの埋め込みが行われるので、簡単に膜タンパクのMDシミュレーションを実行できます。
細胞膜の脂質は、デフォルトではホスファチジルエタノールアミン(PEA)を使ってモデリングされますが、マクロ内でパラメータを指定することで、構成脂質を変更することができます。
現在(YASARA ver. 24.10.5)デフォルトで利用可能な脂質は次の7種類です。
・ホスファチジルエタノールアミン(PEA)
・ホスファチジルコリン(PCH、別名POPC)
・ホスファチジルセリン(PSE)
・ホスファチジルグリセロール(PGL)
・N-パルミトイルスフィンゴミエリン(HWP)
・コレステロール(CLR)
・カルジオリピン(CDL)
脂質の側鎖の脂肪酸は1位がパルミチン酸、2位がオレイン酸で、カルジオリピン(CDL)は4本の「18:2」脂肪酸鎖に設定されています。
マクロファイルの該当パラメータ
膜タンパクMD用の付属マクロファイル(md_runmembrane.mcr)内のはじめの方にパラメータセクションがあり、ここで各種パラメータを編集することができます。
パラメータセクションの該当箇所 |
脂質名の後にパーセンテージを入力しますが、それぞれ1つ目が膜の下側の比率、2つ目が膜の上側の比率になっています。
上側と下側、それぞれ合計が100(%)になるように編集します。
例えば、
膜の上側…PEAが70%、PCHが20%、CLRが10%
膜の下側…PEAが80%、PSEが15%、CLRが5%
のように指定したい場合は以下のように編集します。
memcomplist()='PEA',80,70,'PCH',0,20,'PSE',15,0,'PGL',0,0,'HWP',0,0,'CLR',5,10,'CDL',0,0
補足
YASARA付属のマクロファイルはインストールディレクトリ内のmcrフォルダに保存されています。編集したい場合は、ここからマクロファイルをコピー・適当な場所にペーストし、メモ帳などのテキストエディタでパラメータなどを編集後上書き保存します。その後、マクロ実行の際、編集後のマクロファイルを指定して実行します。
変更時の注意点
・カルジオリピン(CDL)の比率は30%を超えないようにしてください。
・ホスファチジルコリン(PCH)は膜の安定性を低下させるので注意してください。
デフォルト以外の脂質を使用したい場合(上級者向け)
デフォルトで利用可能な7種類の脂質以外の脂質を利用したい場合は、自分で細胞膜のモデリングを行う必要があります。
※シミュレーション中に数分子程度の存在比の新規の脂質を加えたい場合、力場の精度による影響の方が大きいことがあります。そのため、この場合は、複雑な手順でオリジナルの膜テンプレートを作成するより、デフォルトの脂質を使用してしまってもよいかもしれません。
テンプレートを利用する方法
YASARAのインストールディレクトリ内のyobフォルダには、いくつか膜のテンプレートファイル(membrane_*.yob)が保存されています。
小さな変更の場合は、この既存の膜テンプレートを複製・調整して利用することもできます。
この場合、編集した膜のテンプレートファイルは「membrane_[任意の文字列].yob」として同フォルダに保存しておきます。
次に、md_runmembrane.mcrをコピーし、パラメータセクションの「usermemlist()=」行を編集します。マクロ中に記載してあるように、ここには適用する膜のテンプレート名とXZ方向のサイズ(Å)を指定します。マクロ中の入力例を参考に指定してください。
自分で膜のテンプレートを作成する方法
複雑なステップが必要ですが、膜のテンプレートを自分で作成することもできます。詳細についてはこの記事では扱いませんが、試してみたい方は、YASARAユーザーマニュアルの以下のページ、
Recipes-Perform complex tasks > Run a
molecular dynamics simulation > Running a membrane simulation the easy way 中の、
箇条書きの「・If you want to simulate a
membrane containing less common lipids,~」の項目に具体的な操作方法が記載されていますので、こちらをご参照ください。