SwissADMEは低分子化合物の薬物動態、ドラッグライクネスなどの予測や、様々な物理化学的性質を計算することができる無料のウェブツールです。
スイスの学術的非営利組織であるSwiss Institute of
Bioinformatics(SIB)のMolecular
Modeling Groupによって開発され、2017年にリリースされました。
この記事では、SwissADMEの使い方などを簡単に紹介したいと思います。
SMILESの入力と計算の開始
SwissADME(http://www.swissadme.ch/)にアクセスすると、以下の入力ページが表示されます。
初期画面の詳細 |
計算したい分子を入力します。
分子の情報はSMILESリストから処理されるので、分子スケッチャーで分子構造を描画後にSMILESに変換(真ん中の赤いボタンをクリック)するか、直接SMILESリストに入力します。
SMILESリストには1行に1分子を入力し、スペースで区切って分子名を入力することもできます。改行してSMILESを追加していくことで一度に複数の化合物を入力できます。
準備ができたら、右下の"Run "ボタンをクリックし計算を開始します。
結果の表示
計算結果の表示例 |
計算結果は1分子あたり1枚のパネルに、6つのセクション(Physicochemical Properties, Lipophilicity, Water Solubility, Pharmacokinetics, Drug-likeness and Medicinal Chemistry)にグループ化されて表示されます。
結果の保存 |
"Run "ボタンのすぐ下にあるアイコンをクリックすることで、結果の一覧をCSVファイルやクリップボードに保存できます。
バイオアベイラビリティレーダー
分子構造式の右に表示されるグラフ(バイオアベイラビリティレーダー)では、分子のドラッグライクネス(薬らしさ)を一目で確認することができます。
全てのパラメーターがピンク色で示された適正範囲内であればドラッグライクとみなされます。
適正値の詳細は、グラフ上にカーソルを合わせると確認できます。
バイオアベイラビリティレーダー |
各軸と適正範囲(グラフ上にカーソルを合わせると詳細が表示されます。)
この例では極性と柔軟性が適正範囲外となっているので、経口アベイラビリティのない化合物であると予測されます。
Physicochemical Properties:物理化学的性質
上から順に、
・Formula:化学式
・Molecular weight:分子量
・Num. heavy atoms:水素を除く原子数
・Num. arom. heavy atoms:水素を除く芳香環の原子数
・Fraction Csp3:sp3炭素の割合
・Num. rotatable bonds:回転可能な結合数
・Num. H-bond acceptors:水素結合アクセプター(HA)
・Num. H-bond donors:水素結合ドナー(HD)
・Molar Refractivity:分子屈折率
・TPSA(Topological Polar Surface Area):極性表面積
となっています。
Lipophilicity:親油性(疎水性)
分子の疎水性の指標として、オクタノール/水 分配係数(Log Po/w)が用いられています。
SwissADMEでは、5つの計算方法で算出された結果と、その算術平均が表示されます。
Water Solubility:水溶性
3つの計算方法ごとに、Log S 値(水へのモル溶解度の対数)、水への溶解度、6段階のクラス分類の結果が表示されます。
クラス分類の詳細は、「Class」の?マークにカーソルを合わせると確認できます。
Pharmacokinetics:薬物動態
GI absorption(Gastrointestinal absorption:消化管吸収)、BBB permeant(血液脳関門の透過)の予測や、P-gp(P糖タンパク質)の基質や各種CYPの阻害剤となるかの推定、Log Kp(皮膚透過性)の結果が表示されます。
薬物動態のパラメーターは、BOILED-Eggモデルで見るとわかりやすいです。
BOILED-Eggモデルは、構造式を描画するエリアのすぐ下にある赤い「Show BOILED-Egg」ボタンをクリックすると表示されます。
BOILED-Eggモデル |
縦軸がWLOGP(オクタノール/水 分配係数(Log Po/w)の予測値)、横軸がTPSA(極性表面積)です。
白色の領域は受動的な消化管吸収(HIA)の可能性が高い部分、黄色の領域は血液脳関門(BBB)の透過が予想される部分で、青色のプロットはP-gpの基質(PGP+)、赤色は非基質(PGP–)を表しています。
受動的な消化管吸収と脳への透過性を直感的に評価することができます。
Druglikeness:医薬品らしさ
上から順に、
・PAINS(pan
assay interference compounds)
標的に関係なく非選択的に強力な反応性を示す部分構造を含む分子のことで、偽陽性などの問題となります。この項目では、そうした部分構造が見つかった場合にアラートを返します。
・Brenk
Brenkらによって特定された、毒性、化学反応性、代謝不安定性、薬物動態が悪いと推定されるフラグメントが見つかった場合、アラートを返します。
・Leadlikeness
リード化合物としての適合性が表示されます。リード化合物は化学修飾を受け、サイズや親油性が増大する可能性があるので、分子量や親油性などのフィルターがかけられています。詳細は?マークから確認できます。
・Synthetic accessibility
化合物の合成可能性をスコア化したものが表示されます。1(非常に簡単)から10(非常に難しい)までの値で表示されます。
経口薬としての適合性を確認できるバイオアベイラビリティレーダーや、BOILED-Eggモデルの表示は結果を直感的にとらえやすく、操作も簡単なので使いやすいツールだと思います。